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日韓トンネル沿いの地形・地質

地層というのは、土砂が堆積し、それが長年にわたる圧力によって固まってできるので、一般的に古い地層ほど硬くて安定している。海底のすぐ下の地層は堆積したばかりの砂で、まだ岩石にはなっていないことが多い。日本列島周辺の地層は、その成り立ちが比較的新しいのと、火山や地震活動が活発なので、それだけ複雑になっている。
 
これまでの地質調査に基づき、次のような結論が導き出せる。
①ルート選定の前提として、路線規格が決まっていなければならない。トンネル内を走る走体としては、自動車、電車、リニアモーターカーなどが考えられるが、それぞれの場合によって路線規格が違ってくる。
②自動車で超長大トンネルを走行するには、ドライバーの人間工学的な限界が心配される。またリニアモーターカーは試験段階に入ったばかりで、実用化までにはまだまだ時間がかかるものと思われる。
 
そこで、今の段階では、最も現実的な新幹線走行トンネルを想定して、その路線規格を用いることにした。
具体的には、
①最大勾配が1000分の20(1000mで20mの落差)、
②最小曲線半径が5000mーー
これは道路トンネルに置き換えても、十分に適応できる。

 

 

日韓トンネルのルート選定上で最大の問題となっているのは、対馬海峡西水道における、深い落ち込みを伴った大断層と、そこに積もっている未固結の新期堆積層の存在である。この地層に対応するために、ルートは大きく次の二つのケースが考えられる。
 
第一のケースは、未固結の堆積層の下にある岩盤の中を通すものである。この場合、工事は比較的安全と考えられるが、かなりの大深度を通ることになるので、トンネルの総延長がそれだけ長くなる。工事としては、青函トンネルで経験ずみの岩盤止水注入を併用した山岳トンネル工法で掘ることができる。第二のケースは、未固結層の中を通すもので、シールド工法を用いることになる。この場合、トンネルの深度は浅くなるので、それだけ総延長は短くなる。しかし水深150mを超える大水圧下でのシールド工事は前例がなく、解決を要する技術的課題も数多くある。

いずれにしても、九州から壱岐までの間は、岩盤を掘る山岳トンネル工法で掘削可能と思われる。問題は、対馬海峡の東水道と西水道に存在する新期堆積層をどう通過するかで、その性状によって掘削方法が二種類に分かれるのである。
 
以上のような地質状況をふまえて、現在、上記に示すようなトンネル・ルートが提案されている。これは、九州から韓国の巨済島に至る地質平面図である。ちなみにルートCは、直接釜山に上陸するルートであるが、これは総延長が非常に長くなるという難点がある。ここでは巨済島に上陸するルートに限定して地質概況を説明したい。
 
まず九州地区は、唐津炭田の第三紀層があり、その表層部を玄武岩の溶岩がおおっていて、さらに貫入岩がみられる。壱岐水道は、磁気探査の結果、火成岩の貫入が多いことが分かった。壱岐は、第三紀壱岐層群から成り、やはり玄武岩の溶岩がおおっている。

壱岐と対馬の間の東水道では、その中間に七里ケ曽根という岩礁があり、その周辺に火成岩の存在が予想される。大体の地質は、壱岐側は勝本層群、対馬側は対州層群であるが、その間に一部新期堆積層があるため、それを避けようとすると、トンネルはかなり深いところを掘ることになる。

対馬は大部分が対州層群で、南部に花崗岩の大きな岩体があり、その周辺はホルンフェルス化している。ホルンフェルス化とは岩石が熱作用を受けて変質していること。花崗岩は熱を持っているので、それが接する周囲の地層は熱作用を受ける。ホルンフェルス化した岩石は非常に硬い。

対馬の西水道の沖合には、海岸に平行して大断層が走り、その西側で岩盤が深く落ち込んでいて、その上に新期堆積層が堆積している。この新期堆積層は、200万年以上前の第三紀鮮新世の頃、あるいはもっと古くから現在まで、あたかも降りしきる雪のように海底に堆積を続けてきたものである。まだ続成作用の過程にあり、岩石になりきっていない。したがって、水分を多量に含んでおり、きわめて軟弱であると考えられる。

ここを通過するには、堆積層の中をシールド工法で掘るか、その下の岩盤を山岳工法で掘削するかの二通りが考えられる。西水道の最も深いところは水深150m、岩盤の中を通るトンネルならば、その深さは550~600mにもなる。この岩盤は、韓国に向かって約4度の仰角で浅くなっていると思われる。

このような地質概況を基にして、施工時に予想される問題点は、次のように要約される。

まず九州地区では、花崗岩が風化して砂の塊のようになっているところがあり、地下水を含めば崩れやすくなる恐れがある。壱岐水道と東水道の海底には、火成岩が分布していて、そこでは突発的な湧水が起こる可能性がある。

壱岐および対馬では、水資源が限定されており、生活用水や農業、漁業用水などを地下水に頼っている。そこで、地下水利用に極力影響を与えないような配慮が必要になる。また、西水道海底下の未固結の新期堆積層にどう対処するかは、トンネル計画全体にかかわる最大の問題ともいえる。

これまで行ってきた地質調査は、概略的で定性的なものであったので、次の段階では、設計や予算、施工方法の検討に深く関わった、具体的で定量的な調査が必要になる。そこで、今後の課題は、次の四つに集約される。

①まず、陸上部と海底部の全ルートに沿った地質の、工学的性質の解明を強化すること。

②九州、壱岐、対馬の陸上部での地下水問題に対応するために、各地域における水文地質状況を把握すること。

③東水道と西水道での新期堆積層の、地質学的および工学的性質を把握し評価すること。

④海底における地質の分布状況や構造、そしてそれらの工学的性質を把握し評価すること。

なお、これまでの海底地質調査は、海上音波探査が主流であったが、それだけでは地質の物理的性質を把握しにくいので、今後はそれに加えて、海上弾性波探査を実施する計画である。

陸上部の地質に関しては、九州、壱岐、対馬間の地質構造を解明するために、各地区の層序対比を継続して行う。それと同時に、水文地質調査も続けて実施する。さらに、陸上部と海底部の両方について、施工法に対応した地質工学的な検討を行う予定である。

測量の整理も大きな課題で、これまで陸上および海上で行ってきた測量について、測量基準を統一してデータを整理する必要がある。それに、日韓両国間の測量の統一という問題もある。水準原点が、日本では東京の日本橋、韓国では仁川にあるので、この相互関係を正確に把握しなければならない。そのため、今後とも日韓の交流を促進していくことが必要になる。

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    施工調査

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