山陰新幹線は実現するのか――。山陰を経由して、福井県から山口県までを結ぶ超高速鉄道の整備を目指し、松江市など7府県の55市町村が6月5日、「山陰縦貫・超高速鉄道整備推進市町村会議」(仮称)を東京都内で設立する。利便性に加え、「山陽側が災害に遭った時の代替ルートにもなる」と防災面を強調して国に働きかけていくが、費用対効果の壁は厚い。(岸下紅子)
東日本大震災で代替交通手段の重要性が注目されたことなどから、松江、鳥取、京丹後(京都府)の3市が今春呼びかけた。参加するのは、福井県、京都府、大阪府、兵庫県、鳥取県、島根県、山口県の市町村。島根県からは益田市や浜田市など13市町村が加わる。
設立趣意書では、他の地域では新幹線の整備やリニアモーターカーの計画が進んでいるのに、「山陰は置き去りにされてきた」と主張。災害時に山陽側の高速鉄道網が遮断された場合のリスク回避にもつながるとし、新幹線かリニアを走らせてほしいと、国に求めていく。
国土交通省などによると、実は1973年、全国新幹線鉄道整備法の基本計画で松江市や鳥取市の付近を経由する「山陰新幹線」(大阪市―下関市)が「建設を開始すべき路線」として盛り込まれていた。しかし、この年、オイルショックが起きたこともあり、国の財政難を理由に40年間棚上げ状態になっている。
超高速鉄道の実現は、莫大(ばくだい)な整備費に見合う効果があるかが鍵という。2011年に全線開通した九州新幹線(博多―鹿児島中央)は建設費総額1兆5210億円。リニア中央新幹線(東京―大阪)は概算で9兆0,300億円かかっている。
九州新幹線は12年度、1日平均2万4900人(博多―熊本)が利用。一方で、JR米子支社によると、山陽新幹線に接続する岡山と米子を結ぶ特急やくもの利用者は5月の大型連休の多い日でも1日約2500人。
同省幹線鉄道課は「我々も災害対策という視点はもちろん持っているが、やはり費用に対する効果が課題ということは変わらない」とする。松浦正敬・松江市長は「生きている間に実現するかわからないが、今スタートを切らないと実現しない。日本海側の国土軸形成につなげたい」と話している。
(2013年6月4日 読売新聞)