平和への道―地球環境システム設計論(自律分散形制御社会の構築)
世界NGO平和大使協議会議長
日韓トンネル推進長崎協議会会長 川口勝之
ビッグデータ(汎用人工知能)と自律分散制御社会―科学、技術、工学と生命を考える。
これまでインテリジェント・デザイン論(最適設計)の考え方を持って、平和への道、「地球環境システム設計論」を構図してきた。これが欧米と決定的に異なる点は、「世界で一番古くて新しい」思想であるからである。
欧米では、永遠の設計を信じて石で建てられたパルテノン神殿、およびピラミッドは廃墟と化し、風化するまゝに放置されている。「亡びの美学」である。それは、価値あるものとして「文化遺跡」として耳目を集め、歴史的な役目を終えていることを想起する。日本で言えば「荒城の月」である。詩や歌、絵筆で表現して、後世に伝え、現代人の感情移入に任(まか)せている。しかし、それだけではない。これが外(と)つ国とまったく異なる思想であるが、日本では、「伊勢神宮」の森林にしろ、「水域に建つ厳島神殿」にしろ、木造の神殿が生きたまゝ、集合知で、20年のサイクルで生まれ変わり、原始の姿、形を維持している。そしてその「環境」を芸術の舞台装置のように「一体化」している。生命システムの永遠性の追求である。
つまり、「自然と共にある暮らしから生まれる清冽(せいれつ)な精神風土に思いを深める」ことの重要さを再発見すること。この「気付き」が貴(とうと)い。
イタリアでは、「現代のスピード社会に距離を置き、人が主役である暮らしを実現」しようとする「スロー・シティ」連合が脚光を浴びている。これは、川上弘美の「言葉」、『女、子供には、滅亡、危機の場合でも生活があるのです。いや、そういう場合にこそ、「女性」は、子孫を残すことを考えるのです。』と「同期」している。
シュンペーターは、産業が交代する「コンドラチェフ循環」を50年周期説を提示し、大恐慌を分析している。金融自由化と情報通信技術による究極の金融資本主義の時代が到来し、経済の血液であるカネが、全体経済から切り離されて「バブル循環」がくり返されてきた。閉塞状態を嘆(なげ)くのみでなく、海の国と陸の国の「たたかい」つまり、「創造的破壊」の時代となったと云ってよい。「協業」「連帯」を広げたり、市場全体を大きくしたりする発想がしぼんでしまい、前章で述べたように、「自己責任論」ばかりが肥大化している。反原発と脱成長が、イコールになってしまい、話をややこしくしている。若者の4~5割が非正規雇用という「脱成長・成熟社会」ではなく、「成長」は出来るのである。例えば、スウェーデンの経済学者、グンナー・ミューダルは、女性をきちんとした労働者として捉え、その持続的な雇用関係を前提に持続可能な社会を設計した。これが現在の北欧型の福祉国家につながっている。経済の目的は、“ジェット・エンジンの最適設計”で述べているように、最も遅れた最低層を合格点まで引き上げ、全体バランスを取ることである。
そもそも「制度設計」にしろ、「開発設計」にしろ、課題の構成要素技術〈複数の原因(変数)があり、開発が進むにつれて解決すべき要素技術が出て来る〉のうち、最も遅れている要素技術を及第点以上に引き上げ、他の構成要素との技術レベルに整(そろ)えることが肝要である。この「及第点」が問題であるが、学校の成績でいう、65点以上でよい。このすべての構成要素の実力値を65点にそろえること、これがインテリジェント・デザイナーの腕の見せどころである。このような考え方で設計されると、「寿命」も設計値通りとなり、壊れるべきところが壊れ、経済性が成りたっていくのである。ナイロンの靴下が異質に寿命が長くて、経済的に引き合わなかったことがある。技術的には成功したが、経済的に不成功に終わった例は、無数にある。すべての要素技術で高い点数(ハイテクの徹底)をとることが理想と云われるかもしれないが、そうではない。現実には、そういうことは実現できないし、仮りに製作実現できたとしてもコストが高くなり、経済的に成功しない。ここが、科学と技術の現実の思想世界の難しいところであるが、科学では、要素技術の実力値がわからない設計部分があっても、工学では、そこを割り切って、安全性を加味して設計しなければならない。この割り切り方が、正しくなかったのが原発のデザインである。原因がわかっていれば、「技術」でカバーすることができるが、わからない時は、Redundancy Design(余裕設計)(川口勝之,「東日本大震災と原子力発電及びこれからの日本のエネルギーシステム」世界平和研究,第190号(2011年夏季号))を実施することになる。
構成要素技術のすべてを吟味し、相互間の「調和」をデザインして、全体系の機能を高めた、神業のような〈ジェットエンジン〉の設計過程を前に述べたが、これが真の“Limit Design(限界デザイン)”である。原発のデザインは、指導原理である「科学」の段階から、未解決の課題を含んでいる「見切りのデザイン」で危険であり、全体像を捉えていない、不確定なデザインであることが、お解りであろう。
さて、その芸術性(感性的に宗教と同じもの)と科学技術の総合化による、インテリジェントデザイン(最適設計論)と、〈地球環境システム設計論〉の相関を考えよう。
これまで常にこの課題を焦点を当てて、脳の情報処理系を総動員して、話を進めてきた。何となれば、科学技術の利用系の「方向性」の誤りで、環境破壊、地球温暖化、グローバル化による貧富の格差、「不確定の世界」、「不調和の世界」などの「悪魔のそそのかし」を進めて来た、おろかな人間であるが、それを修復できる力も、結局、科学技術の正当な利用系(インテリジェントデザイン最適設計)であるからである。
他方、新しい「終末論」として、考えるべき警告がある。〈制御不能な人工汎用知能への警告〉である。私たち、人類文明に危機をもたらす要因は、前にも述べた如くいろいろあるが、物理学者スティーヴン・ホーキングなどの人工知能(AI)科学者や、ジェイムス・バラット(人工知能―人類最悪にして最後の発明,ダイヤモンド社,2015の著者)が強く主張する「人工知能の危機」は、感性のないアメリカでは未だ認識されていない。生物系の安全設計本能とも云うべき、「自律分散制御系」、これが、集合知として働けば、問題にすることはないが、現実では、2008年の経済大崩壊にしろ、2011年の東電第一原発の炉心溶解大事故が同期的に生じ、まさに制御不能な「巨大技術」の不確定性を如実に体験したからである(川口勝之,「東日本大震災と原子力発電及びこれからの日本のエネルギーシステム」世界平和研究,第190号(2011年夏季号))。一度ある事は、手当てをしなければ二度も三度も起こる。
ジェイムス・バラットらの主張は、こうである。人工汎用知能(AGI)は、自分のプログラムを書き換え、ネットを通じて自分の複製をクラウドコンピュータ系にコピーしていく。ネットにつながったすべてのコンピュータも支配し、工場やロボットを乗っ取り、自己のハードウェアを改良し、人間をはるかに超える超知能体(ASI)に成長する。これから先は、SF映画「2001年宇宙の旅」で宇宙船コンピュータ「ハル」が自己保存のため、隊員を抹殺しようとする有名なシーンにつながっていくのである。
深層学習により、「パターン認識」や「分類」は出来るようになるだろうが、生命システムや生物学的な「意識」、「感性」、「繊細な感覚」や「鋭敏な感受性」は捉えようがない。意識には、科学的定義はない。意識に特有の非アルゴリズム的性質が存在する。
つまり、表現することが出来ない感性、精神性の問題である。感性のある人には、前に「オープンサイエンス」とか、「オープンダイアログ」は、コンピュータの機械的処理を超えた世界が存在することを「直観」で理解するだろうし、この「感知」ができるのは、生物だけである。
それは、コンピュータを含む「機械」と、人間(生物系)には、極限的な相違があるからである。つまり、コンピュータは、あらかじめ設計されたルールに基づいて作動をくり返す、「再現性」に基づく無限の「積み上げ」方式である。重量挙げの出来る義手は、ペットボトルの栓を開けることはできない。そういう風に設計されていないからである。しかし、人間は、何でも「為す」ことができる。それをしないと、生命を保てないからである。「生物」は、移り変る環境、流れゆく時間の中で状況に適応しつつ、絶えず自己を変えながら生きる「動的」な生命システムである。つまり、「自律分散形の制御システム」だからである。これが働かなくなったとき、「生き物」は死滅する。コンピュータ開発にみられるような、「一神教的世界観」とは、根本的に異なるものである。2008年の経済大崩壊や、2011年の東日本大震災第一原発の炉心崩壊は、期せずして同期し、「自律分散制御システム」の作動を妨げることが長期的に発生したことによる。
起こりうる可能性があることに対して、きちんと設計配慮しておくことが、インテリジェント・デザインである。そして、このことが、自律分散制御システムを作動させる“基本計画”になるわけである。
このような生命的な価値を情報技術や人工知能の中に導入し、ビッグデータをうまく活用することが、人類の次の仕事となる。例えば、ハートランド未開地帯に「地球環境システム設計論」を導入して、分散形エネルギー総合化、分類、配分、輸送の実施計画を構築する。ここで力を発揮するのが、エネルギーマネジメントシステム、つまり、〈自律分散制御システム〉であり、稼働率を増し「生産と配分」の最適設計を行う。
その中核となるのが、生命体の集合に宿る〈集合知〉である。これは、前に述べた「オープンサイエンス」とか「オープンダイアログ」で説明した如く、情報と情報の「ぶっつかり」によって、新たな「創造」、「創発」を喚起することに外ならない。塚原ト伝の「無手勝流」であり、「ベルリンの壁の崩壊」を想像してもらえれば理解が早いだろう。
「集合知」とは、人々の多様な推測を「最適設計」でうまく集めると、驚くほど正確な集団的推測ができる、ことである。ビッグデータの分析と再統合や、さまざまなシステムにAIを分散して組み込むことによって、システム自体を賢くする。これが「創発」を生み、集合知を導く効果的な方法、インテリジェント・デザインと云うことができる。この集合知が「創発」する条件は、多様性、独立性、分散性および集約性である。ここで最も重要な点は、多様性、多様性のある参加者の集合である。
「集合知」の利用は、機械任(まか)せでなく、得られた結果の有効性を人間が吟味する点で、誤りが少なく、また、新しいアイデアを生み出す可能性があることは云うまでもない。
専門分化が極端に進み、如何なる専門家にも大局的な判断が難しくなった昨今、今こそ「集合知」が求められ、「理想的なビッグデータ形人工知能」の役割もイメージが見えて来る。人手にあまる膨大なビッグデータを分析し、専門家に創発のヒントとなる分析結果を提供しつつ、人工知能と専門家の「協業」によって、集合知の精度や信頼性を上げていくこと、これが肝要である。
主体はあくまでも「生命」であり、それを具体的に表現するとすれば、図11.1および図11.2のように、分散形エネルギーによる「生産と浄化」の循環の最適設計となる。環境の基礎生産力を高揚するシステムと云いかえることができる。図中のバイオマス燃料森は、残材、残査、排泄物による長崎方式バイオマス高カロリーガス化により、水素、一酸化炭素、メタンを生成して、ガスタービン・コゼネレーシヨン(電熱併給ガスタービン)で、高効率的に発電及び冷暖房、省エネ技術に利用できる。地政学的及び環境条件によって、図中の各種の生産方式と組み合せが自然に定まってくる。
特筆すべきは、研究開発の方向性である。光合成による太陽エネルギー利用効率は、平均0.13%程度で、理論的には10%といわれており、ここに「環境の基礎生産力」を大幅に高めることができる。図11.2は、私が発明した波動ポンプとその利用系で、生産・浄化の最適環境の創造を提示している。高栄養の深層水(100m以上の海深でよい)を波動ポンプで汲み上げ、生物の基礎生産力を高める「高生産海域の造成システム」である。この有機物を元の無機物に戻す浄化系技術には「自動吸入空気混合ジェットポンプ」が発明されている。これらの研究開発は、引用文献(1)に詳細に述べられている。日韓トンネルの物流ハブとなる対馬、壱岐に、地方色豊かな高生産海域を造成するのがデザイナの狙いである。工学的なサポートで生物生産のメカニズムを高度化するわけである。
哲学者ウイリアムジェイムスは、その「宗教体験の多様性」の中で、「鎖の強さはその最も弱い輪によって決まり、人生は所詮、一連の鎖である」と言っている。これが「最適設計論」の基盤である。
分散形エネルギー利用系で、米国で投資に続々参入しているのは、IT大企業だ。設備容量は前年度比2.7倍に急増。アップル(カリフォルニア,ネバダ州)、グーグル(カンザス州)は、マイクロソフト,アマゾンなど60社と共に、購入促進を図る団体を発足させ、アップルは市場で電力を売買する子会社を設立した。これは、太陽光などの発電コストが、ガス、石炭と比べて見劣りがしなくなったことで、「局面が変った」と覗ているのである。「化石燃料安」の状況の中で、エネルギー消費量1、2位の米国と中国が、分散形エネルギーに本腰を入れる動きは、世界を制することになる。経産省は何をしているのだ?
そもそも、新エネルギー器械の開発は、これまで「化石燃料高」の局面で実施され、「化石燃料安」の局面では、消滅するのが常であった。しかし、「化石燃料安」の今日の局面でも、新エネルギー研究開発への積極的な投資が行われている現実は、すべての「物」や「現象」には「限界」があることに、人間が「気付いた」、まさにインテリジェント・デザイン(最適設計論)の結果とみることができる。「蒐集」の時代は終わりつつあるのだ。これからは「創造」、「創発」の世界となる。
図11.1 ビッグデータ(汎用人工知能)と自律分散制御社会の生産とリサイクル
(人間の内面的な感性の表現の研究より)
図11.2 浮体式ダブルアクティング波動ポンプによる生産・浄化の最適環境の創成
(人間の内面的な感性の表現の研究より)